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『ぼくのエリ 200歳の少女』

 『ぼくのエリ 200歳の少女』感想。
 スウェーデンで好評を博したホラー映画。12歳の少年オスカーの隣室に、謎の少女エリが引っ越してくる。どこか惹かれ合う二人の周りでは、凄惨な殺人事件が次々に起きていった。
 
 この邦題で分かるとおり、エリは人間ではないし、番組表のあらすじにもそれははっきり書いてある。少年と吸血鬼少女の話である。内容をその一言で言ってしまえるんだけど、それだけじゃない物語。何とも言えない寂しさと、温度と、切なさと、純粋さが忘れられない映画だった。

 舞台はストックホルム郊外なので、とにかく寒い。雪が深く積もり、湖も凍る。外に出ている人もまばらで、生徒達は整備された教室や体育館にいる。夜のアパートの中庭は、寒さゆえに誰もいなくて、外だけど閉鎖されて孤独になれる。この極寒の地が寂しい雰囲気に一役買っていると思う。
 私はなぜか寒い地方が舞台になっている映画が好きなので、この映画の舞台は文句なしに理想的!

 アパートの中庭に、ぽつんと一つだけある鉄製のジャングルジムが、またいい雰囲気。こんなんじゃ遊べないだろうってくらい小さいし、塗装もされてなくて全然子供向けじゃない。
 ここに薄着な上に裸足で立っているエリが、不思議で異様で孤独で、オスカーがわけもなく惹かれてしまうのもよくわかる気がする。
 こういうちょっとしたシーンに、ハリウッド映画にはない繊細さや素朴さを感じた。

 
 主人公オスカーは、北欧の特徴なのかとにかく髪も肌も色素が薄く、顔立ちもすごく淡白。下手すると女の子に見えるくらい儚い外見をしている。
 対してエリは、髪は漆黒で目もくっきりと大きい。肌は白いけど、それは体調によって血の気が失われたような白さで、オスカーの色白さとはだいぶ違う。『空腹』の時は目の下にも隈ができて、唇も色がなくて、不気味にさえ見える。
 でも体調の良い時はこざっぱりして、なんだかすごくかわいい。同じ人物なのに印象がかなり違う。ウェーブがかかった黒髪もエキゾチックで良い感じ。エリは見ているとほんとに惹き込まれてしまう魅力があって、感心した。
 
 この映画で一番好きなのは『12歳の純粋さ』。難しいことを考えず、先のことを考えず、ただ目の前のことで心がいっぱいになる。『好き』から先がない。そこからどうなりたいとも思わない。その無知で幼い愛情が、単純でどうしようもなく美しい。
 
 


 ここからかなりネタバレなので、続きは畳んでおきます。





 オスカーは12歳だけど、エリは邦題にずばり書いてあるように200歳。オスカーがくれたキャンディを、食べられないとわかっているのに、一度は断ってそれでも口に入れてみる。たとえ幼くはない年齢でも、好意をよせてくれた相手に合わせたいという純粋な気持ちがエリにもあるんだろう。『200歳の純粋さ』にも切なくなる。

 結局キャンディを吐き出すエリを、オスカーは唐突に抱きしめる。よくわからないタイミングだし、しかも若干体重かけるから二人ともよろけそうになる。この不器用さが子供って感じでほんとかわいい。きっと感情が溢れてわーっとなっちゃったんだろうな。
 なんてちょっとほっこりしたんだけど、次のエリのセリフはめちゃくちゃ重要だった。二つの意味があるなんてこのときは思いもしなかったよ…。

 そういえばあらすじで、血を抜き取られる猟奇事件が…って書いてあるけど、実は完全には抜き取れずにどれも失敗に終わっている。エリを扶養している中年男が、がんばってるんだけど目的を達成できなくて、ちょっとかわいそう。人目につかないようにするのは基本中の基本だよ。『CSI』の殺人犯達のスキルを分けてあげたい。

 同級生達のいじめから逃れようと、必死にもがいて反逆するオスカー。飢えを凌ぐために獲物を喰らい、背中を丸めて嗚咽を漏らすエリ。人間と異形なのに、12歳と200歳なのに、必死に生きようとする意思は同じものだった。
 
 途中からエリは積極的にオスカーを取り込もうとしているように思える。恋愛の駆け引きとかではなくて、『こちら側』へ引き込もうとしているような。オスカーのベッドへ入っていったり、書き置きに明らかな好意の言葉を残したり。
 扶養者である中年男がいなくなったから、異形を理解し味方してくれる人が欲しかったのか。そんな打算だけではないと思うし、相手に受け入れて欲しいと願うのは恋だって同じはず。だけどあのオブジェの中にあった指輪の数だけ、そういう存在がいたのだろうなとは思う。でもしょうがない。200年孤独でいたくはないだろう。

 エリは相手を引き込むだけでなく、自分も必死に相手側へ入ろうとする。吸血鬼の『お約束』(相手の了承がなければ家に入れない)が忠実に守られているのには感心した。どうなるか分かっているのに、それでも足を踏み入れ、じっと黙って血を流すエリ。異形は、本能的に相手に受け入れて欲しくてしょうがないんだろうか。相手を捕食しなければいけないのに、入ってもいいよと言って欲しい。矛盾に満ちていて、生きるにはつらすぎる。

 最後の展開はびっくりした!画面的に斬新というか衝撃的。その瞬間は写さないんだけど、プールに首は落ちてくる。いやびっくりした。
 エリの目元がアップで写って、ほんと目が大きくて彫りが深くてきれい。口元写さないのはきっとすごいことになっているから、というのが見なくても分かる。

 エリとオスカーが一緒に町を出て行くシーンを見て、あっと思った。もうオスカーの末路が分かってしまった。でもきっと数年間か数十年間かは幸せな時間を過ごせると思いたい。


 ここまでが観終わった直後の感想。その後、原題はどんなだったのかなと思い検索してみたら、衝撃の事実を知ったのですよ。ほんと衝撃だった…。
 あのぼかしがそんな事実を隠していたとは。それがあるのと無いのとではまたすこし違ってくるんじゃないか。原作からのアレンジってわけでもなく、映画もそういう同じ意図のもので作られたらしいし、あのぼかし入れたのは誰?そして更にミスリードするような邦題に首を捻る。まあ確かに原題『正しき者を中に入れよ』はちょっと取っ付きにくいから、別の題名にしなければそもそも観てもらえないんだろうけど。原作小説の題名『モールス』じゃ駄目だったの?

 でもこの事実を知って、妙に腑に落ちたことが一つ。エリの声、低いなあと思ってた。下手すると声変わりしてないオスカーより低い時もある。喋りが落ち着いてるから低いのもあるんだけど、意図的に低い声の子をキャスティングしたのかも。

 あと原作の設定を色々知ってびっくり。あの中年男、少年の時からエリと一緒にいたわけじゃないんだ!?ええええー、ただの献身的な愛情だけでもなかったのか。てっきりオスカーと同じような存在だったと思ってた。

 にしても、エリの「女の子じゃない」を本当の意味で知った後も、オスカーは変わらなかった。迷う様子もなかった。すでに何も関係なく受け入れてしまったんだろう。それができるのは大人でも子供でもなく『12歳』。この映画で表現したかったことの一つだと思う。
 
 映画的には派手でもなく、インパクト重視の演出もせず、カットバックなどの手法も使わず、ひたすら時系列に沿って淡々と進む。ハリウッド映画のように、観る人に思いきり訴えかけなくても、人の心に何かを残すことは十分できるのだ。この映画を観れて良かった。

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テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

2012-08-07 : 映画 : コメント : 2 : トラックバック : 0
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非公開コメント

エリの声
エリの声は吹き替えなんです。
別の女優さん(やはり12歳の女の子だったと思います)が声だしてます。
エリ役の子はもっと女の子っぽい声だそうです。
2012-08-09 11:00 : 通りすがり URL : 編集
そうなんですか!?全然分からなかったー!
情報ありがとうございます。やっぱり性別を曖昧にする意図はあったんですね。
2012-08-09 22:51 : まみや URL : 編集
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